みなさん、こんにちは。 揺れる電車で旅するのが周の休日スタイルです。
列車の窓から流れる景色を眺めながら、ゆっくりとした時間を過ごす…
このような「非日常のリフレッシュ」を提供する観光列車は、今や各鉄道会社が地域の魅力を発信する切り札として、特に力を入れている分野です。
そのため、観光列車を特化したホームページづくりや、世界観を構築する特設サイトの立ち上げに注力している鉄道会社も少なくありません。
今回は、関西を中心に日本全国を走る観光列車の「Webサイト戦略」に注目し、その魅力的な演出と工夫をご紹介します。
JR山陰本線の廃線を活用し、絶景の渓谷でゆったりと走るのが「嵯峨野トロッコ列車」です。
全線を乗り通してもわずか25分という短さにもかかわらず、美しい渓流沿いの景色は、どの瞬間もシャッターチャンスの連続です。
特に紅葉のシーズンになると、夜間にライトアップされた幻想的なもみじが、昼間とは全く異なる感動を得ることができます。

観光列車のサイトでは多く見かける手法ですが、嵯峨野トロッコ列車のサイトのトップページで、列車が走る嵐山・保津川の絶景を迫力ある動画で全面に押し出しています。
動画の最後には「絶景!トロッコさんぽ」というキャッチコピーが現れます。これは、特急列車のような速さを求めるのではなく、あえてゆっくりとしたスピードで「散歩」のような気分で絶景をじっくりと堪能できるという、この列車の最大の価値を見事に伝えていると感じました。
サイトの色調は、紅葉を連想させる「深みのある赤」をアクセントカラーに使用しています。
また、伝統的な雲や菊の模様、そして穏やかな配色が、古都・京都の雰囲気を強く演出しています。
サイト全体を見ると、運行スケジュールと時刻表、座席や運賃の案内、そして予約方法まで、ワンクリックで確認できる簡潔な構造になっています。
これは、ストレス少なく予約までたどり着けるように、導線を設計されていると感じます。
大阪と名古屋の二大都市を結ぶ近鉄特急のエース、その名が「ひのとり」です。
情熱的な深い艶のあるメタリックレッドで、近未来的なデザインの車両は、乗る前からすでに旅への高揚感と特別感を与えてくれます。
新幹線であれば約50分で到達する区間を、ひのとりでは約2時間かけて移動します。移動時間は新幹線の2倍以上にもかかわらず、多くの利用者から支持されています。
その秘密は、新幹線すら凌駕する、極上の車内サービスにあります。
全座席がゆったりとしたハイグレードな仕様で、座席間隔も広く確保されています。これにより、2時間の乗車時間は一瞬で感じるほどのリラックス空間となっています。
また、オリジナルグッズの販売、無料雑誌の読み放題サービスが付いているWi-Fiなど、単なる移動手段にとどまらず、乗客に「特別な時間」を提供する演出が所々に凝らされています。

「ひのとり」のWebサイトは、この「くつろぎのアップグレード」というコンセプトを、デザインと構成で見事に体現しています。
ローディングアニメーションとして、まず高級感あふれる「ひのとり」のロゴマークが静かに浮かび上がります。そして、スピード感と特別感を強調した近未来的な車両がフェードインする演出は、まさにフラッグシップとしての格の違いを瞬時に印象づけています。
「くつろぎのアップグレード」にふさわしく、サイト全体を通して余白が非常にゆとりをもって取られています。これは、物理的な座席のゆとりを視覚的に表現しており、訪問者にストレスを全く感じさせない演出です。
また、サイトの文字数は極限まで絞られ、必要最低限な情報だけにフォーカスされています。
このような情報設計は、「ひのとり」が提供する快適な車内環境と一致しています。
サイトは上部から順に、新幹線では味わえない極上の移動空間という価値をPRし、その後に車内サービス、運行スケジュール、料金といった情報へとつなげられます。
最後に、スムーズに予約・購入サービスへの導線がしっかりと設計されています。
さて、舞台は四国の高知県へと移ります。 ここで注目するのは、「時代の夜明けのものがたり」という観光列車です。
この列車は、坂本龍馬をはじめとする幕末の志士たちが夢見た「輝きの未来」をテーマにした、まさに走る芸術品です。洗練されたデザインの車両自体が上品な空間となっています。
約2時間半の旅は、単なる「移動」の枠を完全に超え、緻密に練り上げられた「観光コンテンツ」そのものです。広がる海の絶景、のどかな山景色、そして前世紀の産業遺産など、見どころが続く上、高知の豊かな食材を心ゆくまで味わえる美食体験も旅の大きな柱です。
さらに、この列車の最も特筆すべきところは、「人情とのふれあい」です。 走行中は、所々で地元の住民の方々が温かいお出迎えの準備をしてくださっています。
また、限られた停車時間を活用し、地元の名産品の試食や販売なども行われます。乗客は地域の人々の優しさや活気を肌で感じることができます。
先に紹介した「嵯峨野トロッコ」や「ひのとり」が旅行の一部としての特別体験であるならば、「時代の夜明けのものがたり」自体が一つの旅行と言えるでしょう。

この壮大な旅の世界観は、Webサイトのデザインと構成にも反映されています。
まず、海沿いを走る列車のイメージに合わせて、サイト全体は、ロゴのゴールドを除いて目立つ派手な色を使わず、深い青や白といったクールな配色でまとめられています。
このシンプルな色遣いが、幕末という歴史の重厚感を引き立てています。
そして、坂本龍馬などの志士たちが活躍した「歴史の舞台」であることを強調するため、サイト全体で縦書きのレイアウトが多用されています。
これにより、古典的な文学作品を読むような、「ものがたり」への没入感をユーザーに与えています。
JR四国が運営する特設サイトであるため、JR四国の公式ホームページや関連サービスへの導線も充実しています。
さらに、「ものがたり列車10周年特設ページ」へのリンクを経由することで、JR四国が地域活性化のために作り上げた他の「ものがたり列車」(「伊予灘ものがたり」、「四国まんなか千年ものがたり」)の特設ページへも誘導されます。
これは、観光列車を個別の商品としてではなく、シリーズ化したブランドとして展開し、利用者を四国全体の周遊へ促す戦略でしょう。
このように、Webサイトは単に情報を提供するカタログではありません。
会社のビジョンやビジネス戦略を具現化し、ターゲット顧客の心に響かせるための極めて重要なステージでもあります。
競争が激しい現代において、Webサイトを最大限に活用し、ブランドの確立と導線の設計でビジネスの達成へと繋げていきましょう。