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- 依頼をゴールにしてはいけない
たとえば製造業のお客様から、「製品ページに、旧型番と新型番の対応表を載せたい」というご依頼をいただくとします。
文面だけ見れば、表を一枚作る依頼です。範囲がはっきりしていますから工数も読めますし、すぐに着手できます。ただ、なぜそれが必要なのかは、依頼の一文からは読み取れません。
依頼の背景には、取引先の図面に古い型番が残り続けていて、営業担当の方が問い合わせのたびに新旧の対応表を探して手間がかかっているのかもしれません。
こうした背景を知らないままでも、依頼自体はこなせます。けれど、営業の方が客先でスマートフォンから開く場面を想定していない表は、結局使われません。
依頼どおりに作っても、お客様の状況は変わらない。仕事をしたようでいて、何も解決できていません。
このように依頼をゴールにした時点で、その仕事は「言われたものを作る作業」に変わり、考える対象が『お客様の課題』から『言われたものを作る方法』に狭まってしまいます。
こうなると手を動かした時間のわりに得るものは少ないです。ここが良いエンジニアかどうかの分かれ道なのではないかと思います。

私たちの仕事は、お客様の事業の文脈の上に乗っています。
事情を知らなければ、先ほどの相談も「表を作る依頼」にしか見えません。真意が掴めなければ、本当の共感もできませんし、刺さる提案も出てきません。
また、お客様が答えを持っているとは限りません。
お客様も現場が困っていることは分かっていても、原因や解決手段がぼんやりしたまま、手探りで相談してきているかもしれません。むしろそういう場面から相談が始まることの方が多いように思います。
だから最初にやろうとすることは、お客様を知ることだと思います。
何で売上が立っているのか、誰が判断して発注に至るのか、今どこで手間が発生しているのか。限られた時間の中で、できるだけ知ろうとします。
理解を深める中で、依頼の後ろにある目的が少しずつ見えてきます。
目的が定まらないまま課題を並べても、どれも「やったほうが良さそうなこと」に見えて、優先順位がつきません。
お客様を理解して目的を見定めるところが、最初の大きな関門だと感じます。
目的を定めたら目標を決めます。
目的と目標は別のものだと考えています。目的は「なぜやるのか」、目標は「どこを目指すのか」です。
有限の予算と期間の中で、どこに着地するのかをお客様と合意します。合意してようやく、その案件のゴールになります。

目標が決まったら、そこへ至る手段を考えます。探すのは、最小の労力で目標に届く方法です。
ここでいう最小は、自分たちの工数だけではありません。費用や期間、公開した後の運用の負担まで含めた総量です。
作るときは楽でも、毎回の更新作業にコストがかかる仕組みなのであれば、それは最小ではありません。
予算も期間も環境も、すべてに制約があります。制約の中で案を出して、比べて、別の角度からも組み立て直す。
試行錯誤の末に見つけた手段は、依頼どおりに作っただけのものとは、効果も違ってきます。
ここまでの工程には時間がかかります。どこから捻出するかというと、判断の要らない作業からです。
開発環境の構築、コーディング規約のチェック、表示崩れの確認、資料の作成。毎回同じ手順で進む作業をAIやスクリプトに任せて作業の時間を減らしていきます。
ツールも自分たちで作って、毎回やっている定型作業と気づいたら仕組みにしていきます。

最後に、依頼をゴールにしないのは、お客様のためだけではないと思います。
同じ一週間をかけても、言われたとおりに作った仕事は作業の記憶として残り、目的から考えて手段を選んだ仕事は判断の記憶として残ります。次の案件で役に立つのはやはり後者です。
技術の引き出しは、実装した回数ではなく、調べて考えて選んだ回数で増えていきます。
お客様を理解する経験も同じで、知る機会を増やすほど次の依頼の見立てが早くなります。主体的に関わっていくことで、制作の引き出しも増えていきます。
依頼をそのまま受け取れば、早く着手できます。ただそれだけでは、良い仕事をしたことにはならないと思います。
私がアウラのエンジニアとして大切にしているのは、お客様を理解し、ご相談の中から目的を見つけ、目標を決めて、そこへ届く最適な手段を見つけることです。